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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)3713号 判決 1982年2月24日

第一事件原告(第二事件被告)

尾崎尚之

右訴訟代理人

舟橋一夫

亡高橋久夫訴訟承継人、第一事件被告

高橋洋子

外三名

被告ら訴訟代理人

吉井参也

第二事件原告

高橋興業有限会社

右代表者

高橋洋子

右訴訟代理人

吉井参也

第二事件被告

日本コンテナーサービス株式会社

右代表者代表清算人

尾崎尚之

右訴訟代理人

舟橋一夫

第二事件被告

日賀野克範

第二事件被告

作田和夫

第二事件被告

日賀野温

右三名訴訟代理人

石黒竹男

同訴訟復代理人

山田一郎

事実

第一  当事者の求めた裁判<省略>

第二  当事者の主張

(第一事件について)<省略>

(第二事件について)

一  請求原因

1(一) 第二事件原告は、被告会社との間で、左記の約定でコンテナーバックの洗浄用の各種機器について、第二事件原告を貸主、被告会社を借主とするリース契約を締結した。

(1) (イ) 昭和五〇年一一月二〇日、ボイラーについて、リース期間を物件引渡日を始期として三六か月間、リース料を月額三万八六〇〇円 (ロ) 昭和五一年三月一日、水洗機について、リース期間を物件引渡日を始期として六〇か月間、リース料を月額五万三四〇〇円 (ハ) 乾燥装置について、リース期間を物件引渡日を始期として六〇か月間、リース料を月額一八万一三〇〇円

(2) 被告会社が清算手続を開始したときは、第二事件原告は、催告を要しないで契約を解除することができる。その場合には、被告会社は、次の規定損害金を支払う。(イ) ボイラーについて、リース期間の始期金額一一四万七三〇〇円からリース経過期間一か月につき金二万八九七二円を差し引いた金額 (ロ) 水洗機について、リース期間の始期金額二三一万円からリース経過期間一か月につき金三万五〇〇〇円を差し引いた金額 (ハ) 乾燥装置について、リース期間の始期金額七八四万四九八〇円からリース経過期間が一か月につき金一一万八八六〇円を差し引いた金額

(二) 被告会社は、昭和五一年九月一七日、解散によつて清算手続を開始したので、第二事件原告は、被告会社に対し、右リース契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示は昭和五一年一〇月九日被告会社に到達した。

(三) ところで、前記各リース物件は、昭和五一年四月一日までに被告会社に引き渡したのでリース期間の始期は、昭和五一年四月一日であり、経過期間は六か月であるから、規定損害金は、ボイラーについては金九七万三四六八円、水洗機については金二一〇万円、乾燥装置については金七一三万一八二〇円である。

2 亡高橋は、昭和五〇年一二月一八日ころ、被告会社に対し金二五万円を貸し付けた。亡高橋は、昭和五五年六月一九日第二事件原告に対し右債権を譲渡し、同年同月二〇日、被告会社に対し書面でその旨の通知を発し、右書面はそのころ被告会社に到達した。

3 第二事件原告は、昭和五一年六月二三日ころ、被告会社に対して金五〇万円を弁済期同年九月二五日と定めて貸し渡した。

4 第二事件原告は、被告会社の依頼によつて昭和五一年三月ころから同年六月ころまでの間において、コンテナーバックの運搬をしたが、その代金は合計金三五万三五〇四円である。

5 第二事件原告は、被告会社に対して、昭和五一年三月ころから同年六月ころまでの間にコンテナーバック修理用材料等を代金合計金九一万〇〇〇九円分売り渡した。

6 第二事件原告は、昭和五一年五月ころ、被告会社に対し、ホイストを代金一一万円で売り渡した。

7 ところで、第二事件原告が被告会社に対して負担する債務が金一三五万九五六六円存在するから、これを前記第二事件原告の被告会社に対する債権額から差し引くと、第二事件原告が被告会社に対して有する債権は合計金一〇九六万九二三五円である。

8(一) 第二事件被告尾崎尚之、同克範、同作田は、昭和五〇年九月二六日から昭和五一年九月一七日までの間、被告会社の取締役に就任していたものであり、右被告尾崎はその間を通じて、右被告克範は昭和五一年七月二日からそれぞれ同社の代表取締役の地位にあつた。第二事件被告温は、昭和五〇年九月二六日から昭和五一年九月一七日までの間、被告会社の監査役であつた。

(二) 第一事件抗弁3、(二)、(三)のとおり(但し、(三)中「第一事件原告は、亡高橋を被告会社の代表取締役から解任し」とある部分の「第一事件原告は」を「第二事件被告らのうち温を除くその余の者らは」と読みかえる。)。

(三) 第二事件被告温は、被告会社の監査役として取締役の職務執行を監査すべき職責があるのにこれを怠り、前記尾崎、克範、作田の右解任行為を阻止せず、むしろこれを容認したものであつて、監査役としての職務執行につき、悪意又は重大な過失により、その職務を怠つたものである。

(四) 被告会社は、前記のとおり解散し、かつ、会社資産もないところから、第二事件原告は、被告会社に対する請求原因7記載の債権の弁済を受けることができず、結局、右債権と同額の損害を被つた。

9 第二事件原告は、同事件被告温に対して、昭和五〇年九月ころ、金四〇万円を貸し付けた。第二事件原告は、右温に対し、昭和五一年一〇月九日到達した書面をもつて、右書面到達後二週間以内に右金員を弁済するように催告した。

10 よつて、第二事件原告は、被告会社に対し、右リース契約、売買契約、運送契約に基づき、第二事件被告尾崎、同克範、同作田に対し、商法二六六条の三第一項前段に基づき、第二事件被告温に対し、商法二六六条の三第一項前段、二八〇条に基づき、各自金一〇九六万九二三五円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五二年七月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、第二事件被告温に対し、消費貸借契約に基づき金四〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五二年七月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否<省略>

三  抗弁

1 第二事件原告の被告会社に対する請求原因1ないし6記載の各債権は、右両者の取引から発生した債権であるところ、亡高橋は、被告会社及び第二事件原告会社の代表取締役であつたから両者の取引については商法二六五条の規定により取締役会の承認を要する。ところが右各取引については両者の取締役会の承認を得ていない。従つて、右各取引を理由とする請求は失当というべきである。

2(一) 第二事件原告は、亡高橋の全くの個人営業を会社組織にしただけの個人会社であり、亡高橋と第二事件原告とは一体と解されるから、亡高橋が取得できない権利は第二事件原告も取得しえないというべきである。

(二) 第一事件再抗弁のとおり(但し、第一事件原告とあるのを第二事件被告らと第一事件被告らとあるのを第二事件原告とそれぞれ読みかえる。)。

四  抗弁に対する認否<省略>

第三  証拠<省略>

理由

第一第一事件について<省略>

第二第二事件について

一請求原因1、(一)の各事実のうち、(2)の事実を除く部分は当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、右(2)の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

また、請求原因1、(二)の事実は当事者間に争いがなく、同(三)の事実は、前記各証拠を総合して、これを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二請求原因2の消費貸借契約の成立は、<証拠>を総合して、これを認めることができ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

また、亡高橋は、昭和五五年六月一九日右債権を第二事件原告に譲渡し、同年同月二〇日、被告会社に対し、書面でその旨の通知を発し、右書面がそのころ被告会社に到着したことは当事者間に争いがない。

三請求原因3の消費貸借契約の成立を認めるに足りる証拠はない。かえつて、<証拠>を総合すると、第二事件原告は、昭和五一年六月二三日ころ、被告会社に対し、下請負代金の一部前払金として、額面金五〇万円の約束手形一通を振出交付した。第二事件原告の請求原因3の請求金は、右前払金である。ところが、被告会社は、右下請負の仕事を完成した後、同年八月二〇日第二事件原告会社に対し、右前払金五〇万円を控除したうえ、右下請負代金残金を請求したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

四請求原因4ないし6の各事実は、<証拠>を総合して、これを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

五そこで、請求原因8の第二事件被告らの商法二六六条ノ三の責任の成否について判断する。

請求原因8、(一)の事実は当事者間に争いがない。同8、(二)の事実のうち、第一事件抗弁3、(二)の第二事件被告ら(但し、第二事件被告温を除く。)が、昭和五一年七月二日、被告会社の取締役会において、亡高橋を同社の代表取締役から解任したこと並びに同(三)のうち、第二事件被告尾崎が訴外東京日野自動車株式会社の取締役で同社足立営業所長の地位にあつたこと及び被告会社が昭和五一年九月一七日解散し、清算手続が開始されたことは当事者間に争いがない、ところが<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  被告会社は、コンテナーバックの販売、管理、洗浄及びその補修に関する事業等を目的とする会社として昭和五〇年九月二六日に設立された。

被告会社の業務とするコンテナーサービス業においては、塩ビ製又はゴム製のコンテナーバックが一トンないし数トンの重量物の運搬に用いられるので高度の安全性が要求される。そこで、コンテナーバックの製造メーカーは、製品の販売後も自社製造のコンテナーバックの品質管理に関心を持ち、そのために、被告会社のようなコンテナーサービス業に積極的に関与し、自社製造のコンテナーバックの保守点検、補修等の業務を遂行する工場を自社の「指定工場」として、コンテナーサービスの業務を遂行させるのが一般である。このように、コンテナーバックの製造メーカーと被告会社のようなコンテナーの保守・点検・補修等を行うコンテナーサービス業とは密接な関係にあるのみならず、コンテナーサービス業の発注元は、主としてコンテナーバックの製造業者であるから、コンテナーサービス業者はコンテナーバックの製造業者に従属せざるを得ない立場にあつた。昭和五〇年当時は、コンテナーバックの製造業者は全国に十数社しか存在せず、これらの殆どがそれぞれ自己の指定工場をもつてコンテナーサービス業務を遂行させていたので、コンテナーサービス業者の市場開拓の範囲は極めて限られていた。

2  第二事件原告は、昭和四四年一二月一五日設立され、コンテナーバックの製造業者としては大手の訴外太陽工業の指定工場として同社から委託を受けてコンテナーサービス業を営んでいたが、業績は好調であつた。

ところで、第二事件原告は、千葉県に営業所を有していたところ、同所に、訴外太陽工業の強い意向によつて、同社側と亡高橋側の合弁会社訴外千葉コンテナーサービス株式会社(以下「訴外千葉コンテナーサービス」という。)を設立させられたので、亡高橋は、第二事件原告も訴外太陽工業に乗つ取られるのではないかとの危機意識を持つていた。そこで、同人は、訴外太陽工業には内密に第二事件被告尾崎・同克範・同作田らと協力して訴外太陽工業への従属から脱却して自主独立路線を歩むために被告会社を設立した。

3  ところが、前記のとおり、コンテナーサービス業界は狭く、市場開拓が限られていたので、設立後間もない被告会社は、昭和五一年三月一五日操業を開始したものの、主として、第二事件原告から同社が訴外太陽工業から請負つた仕事の下請をしていた。右操業を初めてから同年五月までは営業利益は急速に向上したものの、発注元が主として第二事件原告に限られていたために、到底採算が取れるまでには至らず、翌六月は営業利益の伸びも停滞し、営業資金も底をついた。なお、昭和五〇年九月二六日から昭和五一年七月二日までの累積赤字は、金五八〇万円に達し、また、同社の営業開始日である昭和五一年三月一五日から同年七月二日までの経常収支も約金三三〇万円の赤字であつた。このような事態を憂慮した営業担当の第二事件被告作田は、被告会社の営業活動を活発にし、広く市場を開拓すべきである旨亡高橋に提言した。ところが、亡高橋は、親会社である訴外太陽工業がコンテナーサービス網を全国に張りめぐらしているので、それと競合する被告会社を設立したことを訴外太陽工業に察知されることによつて、第二事件原告及び被告会社に悪影響の及ぶことをおそれて、第二事件被告作田に営業活動をすることを強く禁じたのみならず、同人に前記訴外千葉コンテナーサービスに出向を命じた。ここに至つて、第一事件原告、第二事件被告克範、同作田は、亡高橋に対し、訴外太陽工業への従属から脱して自主独立路線を歩むという被告会社設立当初の方針に立ちかえつて、被告会社の営業活動を活発にし、市場を開拓するほかに現状を打開する方法はないこと、そのためには、営業担当取締役である第二事件被告作田を訴外千葉コンテナーサービスに出向させることは得策でないこと等を進言した。ところが、亡高橋は、右進言を全く聞き入れず、従前の方針を堅持する旨応答したので、かくなる上は、同人を代表取締役から解任し、右第二事件被告らの示した方針に沿つて被告会社を運営するほかに同社の危機を救う方法はない旨の意向を固めた同人らは、昭和五一年七月二日、被告会社の取締役会を開催して亡高橋を同社の代表取締役から解任し、同人のかわりに第二事件被告克範を代表取締役に選任した。以後、同社の経営は、第一事件原告、第二事件被告克範両名が代表取締役として、第二事件被告作田が営業担当取締役として継続することになつた。そして、右取締役会において、第二事件原告とは従前どおり相互に協力関係を緊密にしながら営業活動を活発に行うことを確認したうえ活動を開始した。しかしながら、亡高橋の非協力により第二事件原告からの受注量は激減し、そのうえ前記のとおりコンテナーサービス業界の特殊性のために市場開拓も予定どおりの成果をあげることができず、かつ、将来業績が好転する見込も立たない事態に立ち至つた。そこで、それ以上の赤字の累積を防止するためもあつて、遂に、昭和五一年九月二六日の株主総会において解散決議をした。

右認定に反する承継前第一事件被告高橋久夫の供述部分は採用することができず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

第二事件原告は、同事件の右被告ら(但し、温を除く。)には、コンテナーサービス業についての専門的知識経験がないから同人らが被告会社の経営にあたれば、業績と資産状態を悪化させ、そのため亡高橋に損害を及ぼすことを予見し又は予見しえたものであるにもかかわらず、専門的知識経験を有する亡高橋を代表取締役から解任したことは、取締役としての職務を行うにつき、悪意又は重大な過失によりその職務を怠つたと主張する。そして、前記各証拠中には、第二事件原告の右主張に沿う部分がないわけではない。ところが他方、前記認定の事実のもとでは、右解任行為はやむを得ない措置であつたと云わざるを得ず、これをもつて、前記第二事件被告らに取締役としての職務を行うにつき、悪意又は重大な過失があつたものと断定することは到底出来ないものというべきである。

六請求原因9の事実については、これを認めるに足りる証拠はない。

七次に、被告会社は、抗弁1において、右一、二、四項記載の各債権の発生原因である契約は、商法二六五条の規定に違反し無効である旨主張するので、この点について検討する。

前記のとおり、亡高橋は、第二事件原告及び被告会社の代表取締役を兼ねていたが、弁論の全趣旨によれば、亡高橋は、右各債権の発生原因である右両者間の前記リース契約、運送契約、売買契約、亡高橋と被告会社間の消費貸借契約を第二事件原告会社及び被告会社の取締役会の承認を得ないで締結したことが認められる。

ところで、商法二六五条の立法趣旨からすれば、同条にいう取締役会の承認を要する取引とは、裁量によつて会社を害するおそれがある行為に限られると解すべきところ、<証拠>を総合すると、被告会社は設立当初リース会社の信用が得られなかつたので、操業に必要な請求原因1記載のボイラー、水洗機、乾燥装置を第二事件原告が訴外サンリース株式会社から同社の普通契約条款(リース契約書)により定型化されている料金、条件等のもとに賃借したうえ、これらを被告会社に右契約と全く同一内容の契約でリースしたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、右第二事件原告と被告会社間の右リース契約はいずれも亡高橋の裁量の余地がないから取締役会の承認を必要としないと解するのを相当とする。

また、請求原因2記載の亡高橋の被告会社に対する金二五万円の貸し付けも、弁論の全趣旨によれば、無利息、無担保で貸し付けたことが認められるので、他に右貸し付けが会社を害する等の特段の事情の主張、立証のない本件においては、右貸し付けも商法二六五条にいう取引には該当しないものと解するのを相当とする。

なお、被告会社は、右の各取引について、第二事件原告の取締役会の承認も得ていないから無効である旨主張するが、商法二六五条は、取締役の忠実義務から派生した一種の不作為義務を定めたものと解すべきであるから、同条が会社の利益と取締役の利益が衝突する場合に、会社の利益を優先させ、これを保護することを目的とするものであつてみれば、同条違反を理由として取引の無効を主張することができるのは会社だけであつて、取引の相手方である第三者については、これを否定すべきものと解するのが相当であるから、被告会社の右主張は失当として排斥を免れない。

請求原因4ないし6記載の取引は、特段の主張、立証のない本件においては、商法二六五条にいう取引にあたり無効というべきである。

第四結論

以上の事実によれば、第二事件原告の第二事件被告日本コンテナーサービス株式会社に対する本訴請求については、右一、二記載の合計金一〇四五万五二八八円から第二事件原告が右金額から差し引くべきことを自認する一三五万九五六六円を差し引いた残金九〇九万五七二二円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五二年七月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、また、第一事件原告の請求、第二事件原告の同事件被告尾崎、同克範、同作田、同温に対する各請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民訴法八九条、九二条但書、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(永吉盛雄)

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